こちらの記事では、目黒のブルースアレイジャパンで行われる、「本気で AOR Night」の魅力をご紹介します。
「本気で AOR Night」とは
2014年から、10年以上にわたり、不定期で開催されているセッションです。
メンバー
セッションといえど、ほぼ固定のメンバーで行われています。
2024年の6月のライブのメンバーは、ご覧の通りです。
増崎孝司(G)
種子田健(B)
小笠原拓海(Ds)
中島オバヲ(Per)
友成好宏(Key)
宮崎裕介(Key)
竹上良成(Sax)
三谷泰弘(Vo)
このセッションの中心的存在なのは、やはりギターの増崎孝司さんでしょうか。
増崎さんといえば、日本を代表するフュージョンユニット「DIMENSION」のイメージですが、DIMENSIONの楽曲を聴いてもわかる通り、決してジャズ・フュージョンだけではなく、ロックの要素を持っているギタリストさんだと思います。
特に、Steve LukatherやJeff Beckを彷彿させるフレーズや奏法、音色が随所に出ていて、「AOR」というコンセプトにも非常に相性が良い演奏をされています。
ライヴ上でのフロントマンは、三谷泰弘さん。
スターダストレビューのメンバーを経て、山下達郎さんのツアーのメンバーとしてライブに帯同、そのメンバーで、竹内まりやさんの唯一のライブアルバムのバックコーラスとして参加しています。
興味深いのは、達郎さんとまりやさんのバックバンドのみで「Nelson Super Project」名義で、アルバムを2枚リリースしています。
「本気で AOR Night」のMCでは、AOR思い入れたっぷりの軽妙なトークを繰り広げます。
コンセプト
そもそも、「AOR」とは、「Adult-Oriented-Rock」の略とされています。
直訳すると、「大人志向のロック」となりますが、これは、一般的には、海外ではあまり使われていない用語で、あえて言えば、「Yacht Rock」「Soft Roch」といったワードが一般的なようです。
実際、ブログ主が居るAORバンドも、Youtubeでは、そのワードでハッシュタグを付けると、海外からのアクセスが集まります。
「じゃあ、何がAORなの?」といったときに、こちらのセッションの「AOR」は、ブラックミュージックをルーツに持つ、白人を中心としたアーティスト達の、1977~1983年頃の楽曲と定義されているようです。
一部に黒人アーティストの曲も含まれますが、AORのもつ、洗練されたメロディやコード遣い、或いはアレンジを楽しめる楽曲が、毎回演奏されます。
また、毎回、2~3曲程度は、「新曲」(とはいっても70年代~80年代の曲ですが・・)が披露され、それも楽しみの一つになっています。
では、早速、2024年6月4日・5日の両日に行われたライブのセットリストからご紹介しましょう。
2024年6月5日セットリスト@目黒ブルースアレイジャパン
最近のライブでは、1日に2部構成となっているのですが、2部に重複するのは、先程触れた「新曲(このセッションで初披露する曲)」のみで、他は全て異なります。
従い、1部を観終わった後、再度入場する方も、一定数見受けられました。
【1部】
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① Lowdown (Boz Scaggs)
このセッションライブでもよくオープニング曲に起用される定番曲。
様々なアーティストにもカバーされていますが、中でも、INGOCNIOのバージョンがお勧めです。
② Closer To Your Love (Al Jarreau)
当のいわゆる「ブラックコンテンポラリー」(ブラックシンガーの洗練されたAORに近い領域)の曲。
このセットでも、他にも「Breakin’ Away」等、よく取り上げられますので、次回来場を考えていらっしゃる方は、是非聞いてみて下さいね。
③ Margarita(Marc Jordan)
今回の「新曲」のうちの一曲です。このセッションらしい、マニアックなチョイスです。
AORといえば、その分厚いコーラスも大きなフレーバーのひとつですが、この曲もそうした部分が肝の
曲になっています。
そこをどう表現するかは、後ほどご紹介します。
④ The Nightfly (Donald Fagen)
ご存じ、Steely DanのDonald Fagen のファーストソロアルバム(1983年)のタイトルソングです。
Steely Danもそうなのですが、非常に難解なコード遣いが印象的ながら、選されたサウンドの曲です。
⑤ Your Smiling Face (James Taylor)
こちらも「新曲」です。
James Taylorといえば、アコギを片手にした「シンガーソングライター」といったイメージがあるかもしれませんが、この曲の入ったアルバムでは、彼のキャリアの中でも、最もAORに近いサウンドを取り入れています。
ジャケットに映るJames Taylorも、若々しく、イケメンです。
⑥ For You (Dionne Warwick)
イントロのギターのカッティングが、いかにも、AORの雰囲気を醸しています。
リリース年の割には、サウンド的にも古さを感じない、良いプロダクションだと思います。
AORに近い女性アーティストといえば、彼女と、Anita Baker、Carol Bayer Sager、Carly Simonあたりを思い浮かべてしまいます。
⑦ Heart Of Mine (Bobby Caldwell)
2023年に惜しくも亡くなったBobby Caldwellの名曲です。
Boz Scaggsに提供されたことでも有名ですが、本人バージョンの方が、音像的にも洗練されたイメージになっています。
⑧ Don’t Worry Baby~⑨ Easy Lover (Vapour Trails / Philip Bailey, Phil Collins)
正直、この曲達が出てくるとは思っていなかったのですが、⑧の頭は、当時のテレビ番組「ベストヒットUSA」のテーマ曲として採用されていた、当時の洋楽ファンであれば、誰しもご存じの曲かもしれません。
また、この曲とメドレーで演奏されたのは、当時大ヒットした「Easy Lover」です。
この当時は、大物同士のコラボ曲がチャートを賑わせましたが、この曲もそれの代表格です。
⑩ Lost In Love With You (Leon Ware)
Leon Ware の代表曲、今でも、様々なところでカバーされています。
ちなみに、私の参加するバンドでもカバーしてますが、日本人Voがカバーしたので、いいバージョンがあったので、ご紹介しておきますね。
⑪ Chicago Song (David Sanborn)
惜しくも2024年に亡くなったDavid Sanbornのインストが、メインの最後に演奏されます。
この演奏の終了付近で、三谷さんが再度ステージに上がり、お開きになりますが、すぐにアンコールが用意されています。
【アンコール】
⑪ Here To Love You (Doobie Brothers)
Michael McDonald参加後の名盤「Minute By Minute」の中から、有名なナンバーです。
マイケルの全盛期なので、声域も、とても高い難曲ですね。。三谷さん、頑張っています。
こうして1部の佳境に入っていきます。
⑫ Arther’s Theme (Cristopher Cross)
いわずと知れた、Cristopher Crossの名曲中の名曲です。
2分もそうなのですが、本セッションでは、アンコールの最終に、名バラードで締める傾向が、最近強いように思います。
筆者のフェイバリットドラムがJeff Porcaroなのですが、実は、こちらのスタジオ盤では、Jeff Porcaroが参加しています。
金物を効果的に入れ、抑揚の出しつつ、パーカッシブなフィルを入れていく…これ以上書くとマニアックに走ってしまう(笑)ので、リンクから、是非聴いてみて下さい。
2部
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(※1曲だけSPOTIFYになかったので、後ほどYoutubeでご紹介します)
① What You Won’t Do For Love (Bobby Caldwell)
こちらも、Bobby Caldwellの名曲、というよりは、AORの名曲といってもいいでしょう。
こちらのセッションでも、よく演奏されます。
② All Right (Christopher Cross)
こちらは、Christopher Crossがよくチャートを賑わせていた頃、フラミンゴのジャケットが印象的な「Another Page」からのシングルカット曲です。
増崎さんが、ギターソロを完コピにし、俄然テンションが上がります。
③ Margarita(Marc Jordan)
1部でも演奏された曲、新曲なので、2部でも演奏されます。
④ I Keep Forgettin’ (Michael McDonald)
Michael McDonaldのソロ名義のアルバムから。
彼の代表曲といえば、まずこの曲が浮かびます。こちらも、ドラムはJeff Porcaroです。ハイハットとエンディング付近のキックが、絶妙です。
⑤ Your Smiling Face (James Taylor)
こちらも、1部で演奏された曲、新曲の為、2部でも演奏されます。
⑥ Workin’ Girl (The President)
こちらは、唯一、Spotifyに無かった曲なので、プレイリストには入っていません。Youtubeをご覧ください。
私も、初めて知った曲なのです。誰のチョイス(三谷さん?)かわかりませんが、たまに、マニアックな曲が挟み込まれます。
でも良い曲ですよね。自分のリスナーとしての引き出しを増やしていけるのも、このセッションに出かける一つの大きな要素です。
⑦ You Can Have Me Anytime (Boz Scaggs)
本編のハイライトになります。Boz Scaggsの名曲です。
原曲では、Carlos Santanaの、あの見事な泣きのギターソロがフィーチャーされていますが、増崎さんが見事に再現します。
三谷さんが、「『もう、これしか無い』というようなギターソロ」と表現されていましたが、まさにその通りだと思います。
⑧ Don’t Worry Baby~⑨Easy Lover (Vapour Trails / Philip Bailey, Phil Collins)
こちらも、1部でご紹介した通りです。2部でも演奏されました。
⑩ Ai no Corrida (Quincy Jones)
この曲は、このセッションでも、かなりの頻度で演奏されるヒット曲です。
この曲がAORに該当するかは、受け手の捉え方の分かれるところだとは思いますし、ディスコの曲というイメージもありますが、原曲を聴いてみると、意外にもAORというイメージも見えてきます。
⑪ Run For Cover (David Sanborn)
こちらもDavid Sanborn追悼の意味も込めて、演奏されました。
1部と同様、本編のエンディングでソロ回しも含めて演奏され、最後に三谷さんが再登場してエンディング、というパターンです。
【アンコール】
⑪ Private Eyes (Hall & Oates)
もう、説明の余地のない、定番曲ですね。
このライブでも、エンディング近辺で頻繁に演奏される曲です。
本家の2人は係争中で、もうステージは観られないかもしれませんが、このセッションでは、是非続けていってほしいものです。
⑫ I Just Wanna Stop (Gino Vannelli)
このセッションの、2部のアンコールの最後に演奏されることが、かなり定番化されてきています。
The AOR という感じの、佳曲ですよね。
個人的にも、自身のバンドで、カバーしています。
原曲に忠実に
プロがカバーソングを演奏する場合、ギターソロ、サックスソロ等は、自身の色や手癖で演奏するケースが多いと思います。
ところが、このセッションの場合、先程の曲紹介の中でも少し触れたのですが、かなり原曲に忠実に演奏されているイメージがあります。
聴きたい曲を聴きに来て、期待通りそのまま演奏してくれる、とても心地のよいセッションです。
もちろん、このメンバーの卓越した技術に裏打ちされているのですが。。
AORの場合、アレンジ上、分厚いコーラスがある曲も多いですが、そこの再現は、三谷さんが予め用意したトラックや、それを瞬時に呼び出す機材、ヴォーカルハーモナイザー等が活用されています。
操作は、バックのスタッフがやることが一般的だと思うのですが、そこを三谷さんがフロントに居ながらリアルタイムで行っています。
下の写真の左手でご覧になれるように、三谷さんの右手にパソコンとパッドのようなものが置いてあって、コーラスの音を呼び出すときに、唄いながら、そのパッドを軽く叩く仕組みになっています。
バンド全体として、同期(クリック)に合わせて演奏する場合は、このようなことは不要なのですが、生演奏にこだわるからこそのシステムだと思います。
また、このパッド操作(三谷さんはこの操作を「ポン出し」と呼びますが)の他に、マイクからの入力に対して、エフェクターで3声にする等、数種類のコーラス技を駆使しています。
(この場合は、足元にペダルがあり、エフェクトのON/OFFをしているのだと思います)
やはり、「原曲に忠実に」に拘るからこそのシステムで、毎回興味深く見ています。
以前に、アーティストサイドから、撮影許可が下りたことがありまして、その模様が、下のYoutubeですが、ここでも、原曲に忠実に、コーラスワークが再現されています。
今後の開催予定
これだけの素晴らしいミュージシャンが集まるセッション、なかなか調整が難しいようで、現状、年1回有るか無いかのペースになっています。
ドラムの小笠原さんが、山下達郎さんのツアーで全国を回る状況が続いており、また、竹内まりやさんも、ニューアルバムを発売してツアーにでることが予想されますので、このセッションは、しばらく先になってしまうかもしれません。
ただ、やはり同一メンバーで、安定した演奏を期待したいところなので、来年に期待しましょう。
また、このブログでは、増崎さんの所属するDIMENSIONの記事をリリースしていますので、是非、あわせて読んで頂けると嬉しいです!
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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